荷台の赤ちゃん

もう何年も前の話ですが…高校時代のある冬の日の話をさせてもらいます。
あまり怖くないかもしれませんが、今でも私と友達にはとても怖い…というよりも気持ち悪い思い出です。

…その日は雨でした。
部活が終わって…もう夜の7時頃だったでしょうか。
冷たい雨が降る中、友達と2人でバスを待っていました。
うちの学校は結構山の方でしたが、某自動車メーカーの本社へと道が続いているということもあって、決して車通りは少ない方ではありませんでした。
その日ももうすっかり日は落ちていたのですが、行き交う車のヘッドライトが 水溜りや雨粒に反射して眩しいほどでした。
芯から冷えるような寒さの中、友達と2人で震えながらそれを見ていたのを覚えています。

バスはもう10分以上遅れていたと思います。
会社員の帰宅ラッシュも落ち着いて、車通りがまばらになってきたころのことです。
自動車メーカーからの帰りでしょうか、右の方から大型トラックが走ってきました。
私と友達の立っている側の車線でしたので、水をはねられないかと思い、私はぼんやりとそのトラックを眺めていました。 友達も同じ考えを持ったのか、そちらの方に顔を向けていました。 トラックは私達に気づいたのか、近づくにつれ少しずつスピードを落としてくれました。 『いい運ちゃんじゃん…』 なんて思いつつ、ゆっくりと目の前を通って行くトラックを見上げていると… 「ケケケ…」という小さな笑い声が、雨音や車の音に混じって聞こえた気がしました。 それも、近くで。 『…?気持ち悪…。』 薄気味悪さを感じつつ、通りすぎたトラックを見送っていると、いきなり、隣に立っていた友達が私の腕を強く掴みました。
「なに?」
その力の強さに顔をしかめながら友達の方を振りかえると、友達は信じられないくらい大きく目を見開いて私を見つめていました。
そして、寒さのためかそれ以外のためか…がちがちと歯を鳴らしながら言葉を発しました。

「…今のトラック、荷台の上に…裸の赤ちゃんがしがみついてなかった?」

「…すっごい大きな口開けて…歯茎むき出して、笑ってなかった?ケケケケケケケって……」

…見なくて済んでよかったと思います。
でも、あの時微かに聞こえた、気持ち悪い笑い声が、社会人になった今でも…耳から離れません。

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