ペットショップの話

・ ・ ・その日、お店の裏に立つと嫌な雰囲気がします。なにかここまで書き込んだ瞬間、いきなり画面が真っ暗になりパソコンが落ちました。 えっ何?なんだよ!残り半分消えちゃったよ。まだ保存してなかったのに。 まあこのパソコン古いしなあ、仕方がないもう1回立ち上げるか。 一応電源長押し終了させてから再び電源を入れました。すんなり立ちあがります。 さて急いで続きを書かなきゃ、とキーボードに手を置いた瞬間、携帯が鳴りました。 お店の先輩からでした。 先輩 「ひさしぶり。で、いきなりなんだけど明日店来れるかな?」 私 「ええっ!どうしてですか。私もう辞めてるし」 先輩 「店長亡くなってからしばらく奥さんが店開けてたんだけど、やっぱり閉店しちゃうんだって。それで片付けとかあるから手伝って欲しいんだよ」 私 「嫌ですよ。あんな事があったのに。絶対行きませんから」 先輩 「結局店長の死因は心臓麻痺らしいし、井戸の蓋を自分で持ち上げてその時無理したんだろうって。別に怖い事はなんにもないから。もちろん、給料も特別に出すよ」 お店を辞めてからプーだった私は「給料」に反応してしまいました。 「絶対一人では行動しませんよ。あと、昼間しか手伝いませんからね!!それでも良ければ!」 と強く言うと、先輩はわかったわかったと了解してくれました。 受話器を置いてパソコンに向かうとどこからか小さな声で 「ワン、ワン」 と犬の鳴く声が聞こえたような気がしました。 えっ、もしかして私とんでもないことしちゃったんじゃ・・・ その日はそれ以上書き込む気にはなれませんでした。 次の日、お店に入った私は真っ先に先輩とあの古井戸へ向かいました。 井戸の蓋はきっちり閉められていて、なにかのお札のようなものがビニール袋に入って脇に置いてあります。 先輩 「お前があんまり煩いから一応お札もらって置いといたよ」 私は少し安心しました。 それから売れ残った犬や猫、ペット用品等を物によっては卸値の10分の一以下程の二束三文で知り合いのショップに引きとってもらい、掃除をして一段落したらもう夕方でした。 暗くなるのは絶対嫌だったので 「もう帰っても良いですか」 と先輩に聞くと、奥さんが見当たらないとのこと。 え〜奥さんが居なきゃお金もらえないし、どうしようかなあ。先輩が探しに行くと言うので、 「もう少しだけ待ちます」 まだ明るかったしお金がどうしても欲しかったのでそう言ってしまいました。 椅子に座ってTVを見ながら待っていたのですが、久しぶりに働いた疲れからかいつしか眠ってしまいました。 はっと気がつくと辺りは真っ暗でした。 誰も居ない真っ暗な店内で一人きりになってしまいました。 怖くてしょうがなかったのですが、しばらく動けずじっとしているとだんだん目が慣れてきてうっすら辺りの様子がわかるようになりました。 まずは電気を点けないとと壁を伝いながらじりじり歩いてスイッチを探しました。 「ぐにゃ」 嫌な感触が足の裏にありました。なにか柔らかいものを踏んでしまったようなのですが、うえ〜と思って足元を見ても何も見えません。 それでしょうがなく歩き出すと、また 「ぐにゃ」と 何回か何かを踏んでしまった後、ようやくスイッチの感触が指に伝わり、電気を点けました。 で、部屋を見渡すと・・・ 奥さんが壁際に倒れていました。私は倒れた奥さんの体を踏んでしまったようです。 とんでもない事しちゃったと駈け寄ると、なにか奥さんのお腹がもぞもぞ動いています。 次の瞬間、奥さんのお腹から血が滲み始め、みるみるうちに床が赤くなっていきました。 まるで赤い水溜りの中に倒れているかのようでした。 「誰か呼ばなきゃ!」 私は奥さんから離れ、がくがくする膝をなんとかごまかしながら入り口へのろのろ向かいました。そのとき、 「ワン、ワン」 小さな、それでいて少し甘えるような、そう私がかわいがっていたチワワの鳴き声が聞こえたような気がしました。 えっと振る返ると、砂糖に群がるアリのように、無数の”ぐちゃぐちゃになった子犬?子猫?のようなもの”が壁や床、至る所から這い出てきて奥さんに向かって集まっていきます・・・ 顔が半分無かったり、内臓が出ていたり、体が半分しかなかったりする”なにか”がわらわら集まってくる光景は凄まじいものでした・・・ 私は意識が遠くなり、かすかに何かが衝突する音を聞いた気もしましたが、気を失ってしまいました。 「おい!、どうしたんだ!」 先輩の大声で目が覚めました。 まだ意識が朦朧としているなか、「奥さんが、奥さんが」と繰り返す私。 「わたしがなにか?」 奥さんは私の前ににっこり笑って立っていました。 「はい、お給料。おかげで助かったわ。遅くなってごめんね」 あれ、じゃあさっきのは一体・・・良く見ると先輩は頭に包帯をしています。 たった今、店の入り口でガードレールに車をぶつけたらしいです。 もしあの時私が店の入り口から出ていたら・・・ なぜか手には井戸にあったお札を堅く握り締めていました。 わけがわからなかったのですが、お給料ももらった事だし、早く帰るに限るとお店を出ると、挨拶もそこそこに逃げるように帰りました。 もうあの事は夢だったんだと決め付けて忘れかけていた頃、店長のお墓参りに行く事になりました。 奥さんと先輩と私、あと親戚の方で集まりました。お墓に行く直前、お寺でお経のようなものを聞いている最中に奥さんの姿が見えなくなりました。その時はトイレにでも行ってるのだろうと気にもしなかったのですが、お墓に行く時になっても戻りません。 しょうがないなあ先に行っちゃうか、後から来るでしょうと奥さん抜きで店長のお墓に向かいました。 線香をあげて柄杓で水をお墓にかけました。 「Mさん、裏に水がかかってないよ。」 裏に回って水をかけようとした私の目に、黒いものが映りました。 墓石の影に喪服姿のままお腹から血を流して倒れている奥さんが・・・ その後は警察とか来て大騒ぎになってしまい、私は軽い事情聴取のあと家へ帰されたので詳しくは分かりませんが、すでに亡くなっていたようです。 私はすぐにアパートを引き払いました。実家に帰ることにしたのです。引越しの車に乗って帰る途中、ペットショップの前を通りました。ペットショップの向かい側が店長の自宅だったのですが、見てしまいました。 あの時の”なにか”がお店から出てきて店長の自宅へ群れをなして向かっているのを。 後の事は分かりません。 ただあの時のお札は今も一応取って置いてあります。
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